さようなら、またどこかで。

 1987年製造。HA02というカブを手に入れた。高校生からずっとカブに乗りたいと考え大学2年生の時なけなしのお金でバイクの免許を取ってから数年。水曜どうでしょうの影響を受けているのは言わずもがな。やっと手に入れた。作られてから30年以上経つカブは、もちろん現役。さすがといったところ。僕より年上のバイクにまたがり、色々と人生を教えてもらうような気持ちで乗っている。当たり前の話だがバイクは風を受ける。40キロでもすごく早く感じる。60 km なんてもう考えられない。いつも通った道、いつも歩いていた道、全てが新鮮でとても面白い。特に夜、道路の工事をしている時に工事現場の機械を見るのも楽しい。新しい事を日々発見する。残り数年でおそらく地元を離れることになるだろうから、十分にカブで走っとけという神の思し召しかもしれないなと考えたりいなかったり。

 ある日、信号で止まるとどこかしらか目線を感じる。おかしいなと周りを見渡せば見つけた。前方車両に乗っている子供二人がこちらとじっと見つめていた。手を振る。びっくりしたのか恥ずかしそうに手を振り返してくれる。可愛いなあとぽーっと待っていると。また手を振っている。また僕も手を振り返す。まるで旗振りのようにパタパタとお互いに。ただ手を振るだけでコミュニケーションが取れている。『元気、何してるん、どこ行くんや?』みたいな。信号が青になる。前方車両は右、私は直進。さようならと気持ちを込めて手を振る。向こうもまた手を振る。さようなら。またどこかで。